4週間と6日の

あの時……
「ずっと好きでした、付き合ってください!!」
オーソドックスな告白。
それでも、彼の突然の告白に私は驚きを隠せなかった。
心の整理が追いつかない。まさか彼が私のことを好きだったなんて。
よく話をする仲ではあったけれど、そういう気持ちを抱いていたとは知らなかった。
「ちょっと待って、ごめん、頭の整理をさせて……」
なんとか、時間をもらうのが精一杯だった。
だが、それでもなんとか落ち着くことが出来た。
彼の告白を受けるべきか、それとも……


私には好きな人がいた。名前は河野祐樹。
好きな人と言うよりは、憧れている人と言った方が正しいかもしれない……
河野くんとは、別にそんなに親しく話せる間柄でもないし、そもそも言葉を交わしたことも数えるほどしかない。
それでも、一目惚れと言う奴で、初めて見た時から彼の人柄や雰囲気に惹かれていた。
けれど……
私には無縁な存在だ……
クラスは同じだけれど、うちのクラスは男女で仲も良くないし、私自身そんなに明るく積極的な人間じゃない……
話しかけたくても話せない。そんな日々が続いていた。
ならばいっそ……


「うん、いいよ。私でよければ……」
気がつけば、こんな返事をしていた。
この瞬間から、私−加藤晶と彼−吉川翔は恋人どうしになった……

次の日……
通学路の途中、照れながら恥ずかしそうに笑う吉川くんに会った。
「学校まで一緒に行こう」と勇気を振り絞って、私に言った。
そんな顔が可笑しくて、私の顔も自然と笑顔になる。
「うん、行こっか!」
その私の返事を聞いて、吉川君はほっとしたように笑顔になる。
憧れの河野くんのことは忘れて、吉川くんのことだけ考えていこう。
単純だけど、彼の顔を見たらそう思えた。


3日後……
彼と付き合い始めてから、初めての休日。
今日は吉川くんとデートの約束をしていた。
「お、おまたせ……!」
5分前の到着にも、彼はもう待ち合わせの場所にいた。
「大丈夫、大丈夫。それじゃあ、行こうか」
彼が建てた計画としては、今日は無難に映画を見に行くつもりらしい。けれど、開演まで時間があるから、喫茶店に寄っていろいろな話をした。
30分ほど話しただけだったけど、今まで知らなかった吉川くんのことを知れて、少し嬉しかった。

そのあと、映画も見終わって外に出ると、辺りはだいぶ暗くなっていた。
「そろそろ暗くなってきちゃったし、帰らなきゃ」
高校生にもなって未だに厳しい門限を気にして、私は別れを切り出した。
「そうだね、今日はもうお開きにしようか」
「うん、じゃあまた明日、学校でね!」
お互い別れて、それぞれの方向に向かって歩き出す。
これと言ってなにかあった訳じゃないけれど、私たちの初デートは成功だった。
浮かれた気分が、私にそう思わせた。


1週間後……
付き合い始めてから、少し私の生活が変わった。
学校ではいつも一緒と言うわけではないが、明らかに吉川くんと過ごす時間が増えた。
今日も、今こうして一緒にお昼を食べている。
吉川くんといるのは楽しい。
けれど、生活の変化からか、少しだけ疲れている私がいる気がした。


2週間後……
今日は委員会の仕事で、昼休みは図書室で番をしていた。
利用者なんてあんまりいない。そんな退屈な気分で過ごしていたら、一人の利用者が近づいてきた。
「えっと、図書室って使うのはじめてなんだけど、どうすればいいの?」
そう言って、近づいてきたのは、彼−私の憧れの河野くんだった。
「え、ええと、その……」
突然のことに慌てて、なにも答えられずにいると、河野くんはもう一度繰り返した。
「あの、使い方が知りたいんだけど……教えてくれないか?」
「は、はい!えっとね……まず、本の背表紙に付いてるカードを………」
なんとか、真っ白の頭を使って説明できた気がするが、なにを話したのかも覚えてないし、うまく説明出来た自信もない。
それでも、説明を終えた後河野くんはいたずらっぽく微笑んで、帰って行った。
その顔を見て、忘れたはずの恋心が再び私の中で芽を出した気がした。


3週間後……
図書委員の仕事をしていると、また彼がやってきた。
今度こそ、ドキドキせずに普通に接する。そう心に決めた。
先週河野くんと話してから、吉川くんと素直に接することが出来なかった。
そんな風に吉川くんを悲しませることはもうしたくない。
「よ!本返しに来たぜ。サンキュー」
そんな私の苦悩も知らずに、河野くんは気さくに話しかけてくる。
「いいよ、どうせ図書委員なんて座ってるだけで暇なんだし」
第一声、とりあえず成功。
けど……
「そうなの?だったらさあ、なんかオススメの本とか教えてくれない?最近、国語の成績ヤバイから本読みたくってさあ」
まずい……そう思った時には、すでに遅かった。
適当に2,3言葉を交わして終わるつもりだったのに、そんな私の予定はあっさり壊されることになる。
結局彼のために、あれこれと私の知っているオススメの本を紹介して回ってた。
それでも、また彼と接近で来たのが嬉しくて、心のなかで吉川くんに「ごめんね」とつぶやいた。


3週間と2日後……
今日は吉川くんと昼食。
いつも通りの楽しい時間だ。
なにも気にすることはない、周りを気にすることもないはずなのに、どうしてか周りを気にしてしまう。
どうしてだろう……?
考えようとしてみたが、その答えは見つけちゃダメだと直感して、直ぐに思考をやめた。
「どうしたの?なんか気になるの?」
「ううん、なんでもない。もう大丈――」
大丈夫だよ、と言いたかった。言って安心させてあげたかった。
けれど、それはあと少しのところで阻まれてしまった。
ただ1人の人の、ただ1つの視線によって……
「あ……」
目が合った。
見られてしまった。
河野くんに、吉川くんと2人でご飯を食べているところを……
考えてみれば、私たちは同じクラスなのだから、いつか見られてしまうのは当然のことだ。
その事実から私は、今まで目を逸らしてきた。
だが、それも今日まで。どうしよもないくらいに、その事実を突きつけられて、もう平気でいられる訳がない。
吉川くんは唖然としている私を不思議に思って、私の目線の先を追う。そして、目線の先の人物を認めると、
――ああ、そういうことか……
と、そんな声が聞こえてきそうな、そんな顔をした……
そんな顔をさせてしまったのが、どうしようも無く悔しくて、それでもなにも出来なくて、ただこの場から逃れるために急いでご飯をかきこんだ。


3週間と5日後……
あの日から土日をはさんで、3日ぶりの学校。
あれ以来吉川くんとは顔を合わせていないため、学校に行くのが非常に気まずい。
が、それでもいつも通り吉川君はそこに立っていた。
通学路の途中、いつもの待ち合わせ場所。そこで変わらない笑顔で手を振っていた。
「おはよう。晶」
「う、うん。おはよう……」
変わらぬ笑顔を向けてくれる吉川君に罪悪感を抱きながらも、必死に笑顔を作り返しあいさつする。
そこから先もなにも変わらない。見かけだけはいつも通りで、他愛もない話をしながら学校に向かった。


4週間後……
2人の気まずさは未だ続いていた。ひょっとするとぎくしゃくしていると感じているのは私だけかもしれないが、それでも二人でいることに心苦しさを感じていた。
「んで、最近吉川君とはうまくいってんの?」
昼休み、親友の綾子がそんなことをぶしつけに聞いてくる。
「な、なんでそんなこと……まあまあ、うまくやってるよ」
内心の動揺を悟られないようにそっけなく答える。
「そ、ならいいけど……って、河野じゃん。よ!」
そんな話を綾子としていると、河野君が現れる。
突然のことに一瞬戸惑うが、もともと河野君と綾子の仲がいいことを思い出して納得する。
私が河野君のことを知ったきっかけも、綾子からだった。
「おお!綾子に……晶?そういや、おまえら仲良かったんだな」
目の前に河野君が接近する。それだけで一気に心拍数が上昇したのに、どうやらこのまま話しこむ流れになっている。
今すぐここから逃げ出したい感情にさらされながらも、そのでも逃げ出せない自分の心の弱さに嫌気がさす。
「晶、この前はありがとな。あの本面白かったぜ」
「あ、うん。どういたしまして……?」
「なんで疑問形だよ。おまえほんと面白いな」
彼は私のどこが面白かったのか、くすくすと笑う。
「そ、そんなに変かなあ……」
笑われたのは少しちょっと悔しい気もするが、少なくとも悪い印象を与えているわけではなさそうなので、少しほっとする。
少なくともほんの数週間前よりは、彼の心の中での私は大きくなっているはずだ。
「あんたらってそんな仲良かったっけ?いつの間に接近してんのよー。
特に河野!!晶は男いるんだから手出すんじゃないわよ!!」
そこで気付いた。……と言うより、思い出した。
どんなに頑張っても、私が河野君と結ばれることはないのだと。
けれど私は、余計なことを口にした綾子を恨まずにはいられなかった。
もうここを離れた方がいい。これ以上河野君と一緒にはいられない。
そう頭では分かっていたけど、結局昼休み終了のチャイムが鳴るまで私は、河野君と一緒にいる時間を楽しんでしまった。


4週間と3日後……
今日で吉川君と付き合い始めてから1カ月がたった。
それを記念して、デートをすることになっていた。
けれど、私の心は落ち込んだままだった。
3日前の昼休み、綾子が河野君に私に彼氏がいるとばらされた時、私が吉川くんと付き合っていなければどうなっていただろうと考えた。
あそこで告白を断っていれば、もっと河野君と近付けたのかなと思わずにはいられなかった。
そんなことは考えちゃいけない。
それでも、私の頭はそんなことを考えていた。
「おまたせ!!早いね。まだ15分前だよ?」
「家にいても暇だかって、早く出過ぎちゃった」
二人の一番近い駅で待ち合わせ。これも2回目だ。
せっかくの1カ月記念だから水族館に行こうと彼は張り切っていた。
このデートをずっと楽しみにしていた彼の心を考えると、ズキっと心が痛んだ。
電車に乗る。
会話は途切れない。お互い一生懸命に話題を探したから。
目的の駅に着いて、水族館まで歩いていく。
笑顔は絶えない。お互いに笑おうと一生懸命だったから。
彼は楽しむために笑って、私はそんな彼を悲しませないように笑った。
「なあ、晶!!こっちにはいっぱいペンギンがいるってよ」
「うそ!!見たい、見たい!!」
私はうまく笑えているだろうか。
吉川君はせっかくのデートをちゃんと楽しめているだろうか。
そんなことばかりが気になった。

そして、夜が来た。お別れの時間。
私たちは最初の駅の前で見つめあっていた。
楽しい時間はすぐに過ぎると言うけれど、私にはこの数時間が十時間くらいに感じられた。
せめて吉川くんにはこの時が、一瞬のように感じられていますようにと心で祈った。
「もう、7時だね……晶は楽しかった……?」
「私は……」
「ボクはすごく楽しかった……」
吉川君は私の返事も待たずに、そう口にした。
「ありがとうね、晶。本当にありがとう……」
つぶやくように、そう告げる。
「それじゃあまた、学校で会おう!!」
何か言うべきなのだろうか。
きっとそうだ。
いい加減、吉川君に告げなくてはいけない。
……なんて?
そんなことを考えまま、別れは近付く。
「バイバイ、晶」
「あ、うん。バイバ――」
その思考は、唐突に打ち切られた……
彼――吉川君は
去り際に、
静かに、
私の唇に、
彼自身の唇を重ねていた。
「あっ…………」
鼓動が、息が止まる。
あまりの驚きで少しも動くことができない。
ほんの数秒後だろうか。数分にも感じられる長いキスを彼はやめて、一歩後ろに下がった。
そこで気まずそうに目線を下げる。目を合わせようとする気配は感じられない。
それでもまだ、私の思考は追いつかない。
「ごめん、本当にごめん…………それじゃあね」
それだけ言って、彼は踵を返し去っていく。
最後までお互いに目を合わせることはなかった。
「………………」
彼のいなくなった駅で一人、取り残される。
「初めて、だったのにな……」
この期に及んでまだ、私はそんなことをつぶやいていた。
今触れ合ったばかりの唇にそっと指を触れる。
私と吉川君は付き合っているんだから、キスだって当たり前のことだ。
そのはずなのに……
「私、ひどい女だなぁ」
吉川君が初めての人になったのが少し、不満なようだった。


4週間と5日後、朝……
その日の朝、いつもの場所に彼はいなかった。
その代わりにメールが一通。
『ごめん、寝坊しちゃったから先に行ってて』
本当かどうかはわからないが、その申し出は私的にも気が楽だった。
久しぶりの一人での通学。なにも考えなくていい分心が軽い。
20分ほど歩いて到着。
当然学校に着いても吉川君はいない。
それを確認して、ゆっくり教室に足を踏み入れた。
その時……
「よ!!」
陽気な声がすぐ後ろから聞こえてきた。
突然の事態にあわてて振り向く。
「な、なんだ河野君か。おはよう」
「おはよ。なーにそんなビビってんだよ。相変わらずだな」
そんなことを言いながら、ふらふらっと席に向かっていく。
「朝っぱらから元気だねー」だなんて言って、それを見送る。
本当は、突然彼に声をかけられたことで上昇した心拍数はまだ下がってなくて、彼に声をかけてもらえたことがすごく幸せだった。


4週間と5日後、昼……
昼休み、今日は昼食を綾子たちと取った。
最近では吉川君と昼食をとる日でなくても、その日になって一緒に食べようと誘われることも多かった。
けれど今日はそんなこともなく終わった。
いや、それどころか吉川君が遅刻してきたせいでまともに挨拶すらしていない。
今までこんなことはなかった。
終わりが、近付いているのかもしれない。


4週間と5日と6時間後……
結局その日1日、吉川君と言葉を交わすことはなかった。
夜、ベットの上でケータイに目をやる。
何かしらメールを送るべきだろうか。
メールでも口頭でも一言も言葉を交えないなんてことは、付き合い始めてから今までなかった。
「緊張、するな……」
ケータイの画面を見つめため息をつく。
なんて文面のメールを送ればいいのだろう?
そもそも今の私に、吉川君に気軽にメールを送る資格などあるのだろうか。
そんなことをもんもんと考えていると、突然ケータイが震えだし驚く。
「メール……?」
そのメールを開くのが少しためらわれたが、覚悟を決めてボタンを押す。
送り主は当然、吉川君だ……
先を越された。
内容はなんだろう?
なんとなく予想はつく。
彼のことだ、きっとまた私に気を遣ってくれたのだろう。
メール内容を見るのが怖い。けど、私にこれ以上逃げることが許される訳がない。
一度大きく深呼吸。
そして、思いっきり勢いをつけて親指に力を込めた。
内容……
『件名;明日の放課後、屋上のドアの前で待ってる』
それだけの、簡素な内容だった。
「そう言えば、告白の前のメールもこんな感じだったな……」
けれど、同じ文面でもそれの意味することは違う。
「明日、か……」
思ったよりも早かった。
最初に思ったのはそんなことで、それを皮切りに次から次へといろいろな思いが頭を満たしていった。
反省、後悔、謝罪、ありとあらゆる感情が生み出される。
その中でもとりわけ強かったのは、謝罪だ。
吉川君への謝罪は止まらない。
散々気を遣わせた、迷惑もかけた、悩ませもしただろう。
これ以上彼に気を遣ってもらうのは終わりにしよう……

そう思い、私はある一つの決意をした。


4週間と5日と15時間半後……
朝、教室のドアを開ける。
――いた。
吉川君は自分の席で静かに教科書を読んでいる。
私はその背中にそっと、「ごめん」と呟いて自分の席に向かった。
席に着く、後は適当に授業を流し聞くだけだ。
そうすればいやでも放課後は来る。
そうして私は、意識を断ち切った。


4週間と5日と、23時間45分後……
――その時が、来た。
帰りのホームルームが終わると、吉川君は荷物を鞄にしまい始めた。
私もそれを見て支度を進める。
ほどなくして、吉川君が席を立つ。
私はまだ行かない。
一度、席の上で精神を整える。

……………五分ほどたっただろうか?
いよいよ、席を立つ。
今歩くこの廊下も、この曲がり角も、あの日告白の場所に向かったあの時と全く同じ道だ。
あの時、こういうのに鈍い私はよくわからずにこの道を歩いていた。
けど、今は違う。
同じ道なのに全く違う。
最後の直線。
この胸の鼓動の早さも、まるで違う。
おかしな話だ。
告白の場所に向かう時よりも、今の方がよっぽど緊張しているなんて。
そして、目の前に、彼がいた。
「やあ、ごめんね。急に呼びちゃって……」
――どこまでも紳士的。
「ううん、大丈夫」
「そっか……」
――静寂
「ねえ、きみと過ごしたこの一カ月と少し。すごく楽しかったよ?出来ることなら、きみにも楽しんでほしかった……」
「…………」
「でも、それは無理だってわかってた。最初からね……」
「最初から?」
――彼の口ぶりに少し疑問を感じる。
「うん。きみと付き合う前から……ごめん」
「ばれてたんだ……恥ずかしいな」
「結構バレバレだったよ?」
――彼は苦笑いしながら告げる。
「でも、付き合っちゃえばどうにかなると思ったんだけどなあ……」
――彼は表情を一変曇らせて上を見上げる。
「ああ、あと。この前のキスはごめん……あれはボクからのちょっとした仕返しのつもりだったんだ」
――また苦笑い。
「なんて、さっきから謝ってばかりだね。ごめん……」
「そ、そんな。謝らなきゃいけないのは私なのに」
――これ以上彼が謝るのは見ていられなくて言葉をはさむ。
「ありがとう……でも最後にもう一つ謝らなきゃいけないことが残ってた……」
――また表情一変。あの時の、告白したときの真剣な顔になる。
「本題に入るよ。ボクは、きみに一つ伝えなきゃいけないことがある」
――――その時が、来た。


その時(4週間と6日後)……
「吉川君。先に、と言うか、私からも言わなきゃいけないことがあるの……」
「え……?」
――吉川君は面食らったような顔をする。
「言わせて……自己満足かもしれないけど」
「うん、聞かせて」
――吉川君は表情を変えずにうなずいた。
「あのね。私には好きな人がいます。本当は忘れようと思ってたの。だけど、私はどうしても忘れることができませんでした……
だから、私は…………
これ以上吉川君の彼女でいることができません!!
本当に、ごめんなさい!!」
――言った。昨日からずっと考え続けてきた言葉をすべて吐き出せた。
――これで、よかったのかな?
「そっか。それじゃあ仕方ないね……」
「本当にごめんなさい……」
「顔、上げてよ……最後くらい、顔見せてよ」
「う、うん……」
――本当は、こんな泣きはらした顔は見せたくなかった。
「ねえ、最後に一つだけ言わせて……
きみと過ごした今まで、本当に楽しかったよ。これだけは、信じて……」
「うん。ごめんなさい、ありがとう……」
――今、私は泣いているのだろうか、笑っているのだろうか?
「じゃあ、また明日。学校で」
――そう言って彼はこの場を立ち去った。
この1カ月と少しの付き合いに、意味はあったのだろうか?
     私は、強くなれたのだろうか
     私は、優しくなれただろうか
なにか意味はあった。そう思いたい。
でも…………
「だれも傷つかない恋ってないのかな?」




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