Memories of Tear  第2章(6)

学校が終わり、今日もいつものように自転車で帰る。
だが、今日は隣に中島と言うオプションが付いている。
部活をやっているわけでもないのに、一緒に下校できるのがたまにだと言うのだから、驚きだ。
しかし、そんな珍しい一緒の下校も、今日ばかりはあまり嬉しくなかった。
理由は簡単だ。一緒に下校をするときのルートはいつも神社の前を通る。このまえ神坂とは微妙な別れ方をしたため、今はあまり神社前を通りたくない。
一人なら勝手に神社を通らないルートを選べるのだが、中島が一緒となると下手にルートを変えることができない。
こいつは天然のくせに無駄にカンが鋭いから、ルートを変更しようなどと言い出せば、絶対に神坂と何かあったとばれる。
そうなれば、真剣にアドバイスをくれるだろうが、正直それは恥ずかしい……
だが……
「今日はジャンプ買うから、本屋寄ってこうぜ」
ばれていた。間違いなくばれていた。俺の予想以上のカンのよさを見せつけられた。
「お前、別にジャンプ読者じゃないだろ……?」
明らかに俺に気を使って、ルート変更しようとしている。ジャンプは体よく、その理由作りに使われた訳だ。
「俺だって、たまには読みたくなるんだよ」
そう言って、神社に向かうルートから外れていく。
このまま着いていっていいものかとためらったが、気を遣わなくていいと言いだす勇気もなかったので、おとなしく着いていくことにした。
ほどなくして、俺たちは安井書店の前に着いた。相変わらず書店の中には誰もおらず、おばあさんが一人暇そうに店番をしている。
そう言えば、いい加減に入れ歯は入れなおしたのだろうか……
「んじゃ、ちょっと買ってくるわ。おまえも来るか?」
「別にいいよ。欲しいものもないし」
買うものもなしに店に入るのは好きじゃない。普通のコンビニならまだしも、顔を覚えられている近所の店なら、そういうのを気にしてしまう。
「なあ、清水。ジャンプが発売されるのは月曜だけだ。それに俺は今日買ったらしばらくは買う予定はない。他の本だって買うつもりはないからな……」
中島はそんなことを言い残して、書店に入っていった。
さっきの言葉、翻訳すると意味はこうだ。
"気を使って寄り道するのは今日だけだ。明日からは覚悟を決めろ"
ざっとこんな感じだろう。
言われなくとも、何度もお前の気づかいを受ける気はない。
「ひらっひゃいひゃへぇ〜」
中島が店に入った瞬間、店の方から愉快な声が聞こえた。どうやら、まだ入れ歯は入っていないらしい。
というか、食事の時どうしてるんだ?
疑問に思わずにはいられない。
遠くから店の中を覗くと、中ではちょうど中島がジャンプを手にとってレジに向かうところだった。
さあ、困惑しろ!!ばあちゃんの難解言語に戸惑うがいい……
だが、奴のスペックは俺の予想の遥か上を行っていた。
なんと、ばあちゃんと普通に会話をしていたのだ。
最初はばあちゃんが何と言っているのかわからなくて、必死に何度も聞きなおしているだけかと思った。
しかし、お互いは笑いあっていて、とても和やかに話しているようにしか見えなかった。
なぜだ……なぜ奴は普通に会話できる?
そもそも、奴のこの異常なまでのスペックはなんなんだ?明らかにおかしいだろ、なんか悲しくなってきた……
いや別に、入れ歯の取れたばあちゃんと会話ができる能力なんていらないが……
「お待たせー」
ばあちゃんとの会話を終えた中島が帰ってくる。
「いやあ、久々に安井ばあちゃんと会ったら、話盛り上がっちゃってさー!!」
「何で盛り上がれるんだよ!!てめえは読唇術でも持ってんのかよ!!」
「????」
何言ってんだこいつ?的な顔をして首をひねる。
そもそも、聞き取りにくく感じたことすら無い様だった……
そんなこんで、今日は無事に帰宅することができた。
――だが、明日からは何時もの帰宅ルート。問題を後伸ばしにしているだけなので、明日からのことを考えると少し重い気分になった。




次へ

戻る

inserted by FC2 system