Memories of Tear  第2章(1)

 昔、俺たちはよく3人で遊んでいた。
 俺と中島と、佐々原。
 佐々原は本来、この町の住民ではない。親の家が隣町にあり、そこに住んでいる。
 ただ、その家はちょうど村と町の境界付近にあり、ここからそう遠くはない。
 初めは中島と2人だけで遊んでいたが、どういう経緯か佐々原も隣町からこの村に来て、一緒に遊ぶようになった。
 だが、6年の終わり。ちょうど中学校に進学するときに、親の都合で遠くの町に引っ越すことになった。
 その後、特にお互いに連絡を取り合うこともなく過ごしてきた。
 だが、再び隣町にある両親の実家に住むことになり、今に至るわけであった。
 「大体わかった?」
 「ああ、大方把握したよ……」
佐々原からこれまでの事情を聴き終えて、ほっと一息を吐く。
昔よりも髪は伸びて、腰の近くまである。左右非対称に右側の髪だけ結ってあった。
だが、高圧的な話し方や、吊りあがった目、綺麗に整った顔立ちは変わらない。
左耳の近くにあるほくろや、昔から付けていたキャラクターのストラップなども、変わっていない。
久しぶりの再会の興奮も落ち着いてきて、なぜだかそんな細かいところに目が行くようになってきた。
そういう細かいところ一つ一つが変わっていなくて、少しだけ嬉しくなる。
「周平はどうしてる?」
「中島なら村の役場の方で集まりがあるって言って、そこに行ってるよ」
「そ、相変わらず面倒くさい生き方してんのね」
中島は昔から、いろいろなことに首を突っ込むのが好きだった。
子供のころは、村の中である程度の役職に就いていた父さんの付添いで参加していたが、最近では自分の意志で参加している。
今日は夏祭りの会議に参加している。
「ところでさあ、さっき一緒にいたのって神坂さんでしょ?なんか帰っちゃったけど、いいの?」
「え、うそ……?」
言われて初めて気が付いた。辺りを見回すが、それらしい人影はない。
「はあぁ……なんか、全然だめだったな……」
「ん?ひょっとして、初デートかなんかだった?それは悪いことしたわね」
これっぽっちも悪びれた感じのない声で謝罪する。
「いや、そんなんじゃないけど……まあ、タイミングが悪かったのは事実かな」
「失礼な!!何年ぶりの再会だと思ってるのよ!!……と言うか、二人はどういった関係で……?」
「どうもこうもないよ、ただたまたま会ったから一緒に話してただけだよ……」
神坂と歩いていると、やけにめんどくさい人にばかり出会っている気がする……
なんでこんなにタイミングが悪いんだ。佐々原も来るにしても、もう少し別の時があったろうに……
「ん、まあいいや。航希だってそろそろ年頃だもんね……周平には黙っといてあげるよ!!」
「いやいや、そんなんじゃないから!!ほんとに!!」
「はいはい。わかったわよ……」
そう言って佐々原は苦笑いする。
「わかればいいんだけどさ……」
「ん…………」
「……………………」
なぜか無言になる。
まだいろいろと聞くことがあるはずなのに、なんとなく言葉を発する気分になれなかった。
「………………」
「…………………………」
「……ふふっ、あっはははははは!!!!うはあああ!!」
「って、なんで爆笑!?」
長い沈黙を破るように、突然佐々原は笑いだす。
「いやあ、ほんっっと変わらないねー!!」
「悪かったな……変わってなくて」
「ううん、変わってなくてよかった。車から懐かしい顔が見えたから、勢いで降りてきちゃったけど、全く人が変わってたらどうしようかと思ってたよ……」
「そか、なら良かったよ。俺も佐々原が全然変わってなくて安心したし……」
「うん……あ、ごめん。そろそろ行かなきゃ。車におとうさん待たせてるし」
「おう。またな」
「うん。それじゃあね!!いろいろやること終わったら、また会いに来るから!!」
そう言って佐々原は、手を振りながら待たせていた車に再び乗り込んでいった。
「あ、今度会うときは周平も連れてきてねー!!」
佐々原は車に乗り込む寸前に、思い出したようにで立ち止り叫んだ。
「もちろん!!あいつも会いたがってると思うからな!!」
俺も遠くの車に届くように叫び、手を振り返す。
その後、すぐに車は出発し、俺は車が見えなくなるまで、その場で手を振りながら見送った。
みるみる車は小さくなっていき、30秒としないうちに見えなくなった。
「…………はあ。この後どうしよ??」
道に一人取り残されて、どうしていいかわからず寂しく息をつく。
いきなり暇人に逆戻りしてしまった。佐々原に会えたのはうれしいが、中途半端な形で、神坂と別れることになったのはつらい……
なにより、今度会う時にどんな顔をしていいのかわからない……
毎日神社の前を通ることを考えると、先が思いやられ憂鬱な気分になる。
「…………はあ。……帰るか」
この微妙な気持ちを鎮めるために、考えを声に出してみる。
こんなところにつっ立ていても仕方ない。おとなしく、当初の予定通り家に帰ることにした。




次へ

戻る

inserted by FC2 system