Memories of Tear  第2章(4)

「と言うわけで、しばらくかくまってくれ……」
結局そのあと、俺は母さんに白い目で見られながら家に戻り、着替えを済ませた。
そして、家の中はあまりにも居心地が悪かったため、家の前で待っていた佐々原とともに中島の家まで避難することになった。
そこで、中島に事情を説明して今に至る。
「あっははは!!いいじゃん、楽しそうで」
「笑い事じゃないよ……母親相手って結構きついぞ……」
「だろうねー。航希のすごいおろおろした顔は笑えたよ」
佐々原はニヤつくのを押さえようともせずに、高笑いする。
「まったく、お前の性格の悪さは健在だな……と言うより、むしろ悪化している気がするのだが…………」
人間年をとると性格の特徴が強くなってくると言うが、早すぎやしないか……?
このまま成長したら、佐々原がおばあさんになったころには、とても手に負えない奴になっているだろう。
「そう?別に私はそんなに変わったとは思わないけどなあ……?あれじゃない?むしろ、航希のいじられ属性が悪化したんじゃない?」
「あー、そうなのか?俺はずっと一緒にいたから、細かい変化とかわかんないんだが」
「絶対悪化したって!!よく言うじゃん?人間年をとると自分の性格が顕著に表れるって」
「本当か!?だとしたら、清水がお爺さんになったころには、とんでもないいじられキャラになってるのか……」
「おそらく、わたしたちの手に負えないほどね……」
…………俺のいじられキャラは、佐々原のいじりキャラと同レベルだったのか。
と言うか反応が俺の考えていたことと全く同じ過ぎて、気持ち悪いぞ……
「そう言えばさ」
突然中島が空気を変えるように、ぽつりとつぶやく。
「3人そろったのは、佐々原が帰ってきてから初めてなんだな。久しぶりにそろったって言うのに、当然のように一つの話題に盛り上がって……なんか俺たちらしいな!!」
中島は本当にうれしそうに語る。昔の懐かしい雰囲気に戻って、感じるところがあるのだろう。
俺たちもそれに賛同するように、静かに今の状況を確認する。
「そうだな。なんかむずがゆいって言うか、変な感じするな」
「そうか?俺はすごくしっくりくるぞ?当たり前な感じっていうのかな?」
「確かに、それもわかる気がする。なにせ、あの時のメンバーが全員そろったんだからな」
「違うよ……」
佐々原が重い一言を放つ。出来る限りの感情を押し殺したような、そんな声だった。
「全員なんかじゃ、ないよ…………」
「「え……?」」
今まで黙っていた佐々原が突然語りだした。
そのことは別にかまわない。だが、俺たちは佐々原の言っている内容が全く理解できなかった。
今はみんなで久しぶりの再会を喜んでいた。なのになぜか突然佐々原は悲しい顔をしだしてしまった。
「あ……」
佐々原は辺りを見渡し、今の自分の発言によって、俺たち二人が頭に疑問符を浮かべていることに気づく。
「嘘うそ!!なんでもない、なんでもない!!今のは気にしないで……ね?」
あわてた素振りでなんでもないと訴えるが、逆に何かあるのがばればれになる。
「そ、そうか……」
しかし、何かあると分かっていたとしても、追及は出来なかった。
佐々原は有無を言わせない態度だったし、なにより追求したとしても絶対に答えてはくれないという確信があった。
「……う、うん。気にしないで……」
追求するのをやめたところ、こんどは会話がしにくい微妙な空気になってしまった。
「そ、そう言えば。なんで佐々原は急に戻ってこられたんだ?」
中島がこの空気を打破しようと、話題を振る。
「それは、親が仕事を辞めて、実家に戻るって言い出したから」
佐々原は答える。
この後も一応会話は続いて行った。ただ、最初の時の様な居心地の良さはなくなってしまっていた。
適当にお互いの近況を確認しあって、無難な話を続けた。
そこには昔の様な、無条件な楽しさはなかった。
"足りない"
違和感はどんどん強くなっていった。昔俺たちはこの3人で笑いあって、遊んでいたのだろうか?
時がすべての形を変えてしまっているのか……
一つパーツの足りないパズルを解いている感じ。そんな言いようもない感覚に支配されていた。




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