Memories of Tear  第2章(5)

「んで、その子可愛いの?」
「まあまあじゃん?高慢ちきな奴だけどな……てか、真っ先に見た目聞くのやめろ……」
昼休み。今日も浅井と中島と3人で集まり、浅井に昔なじみの友人と再会を果たしたという話をしたところ、案の定真っ先に見た目を聞かれた。
「いやあ、遂にしみっちゃんにも春が来るんですかねえ……」
「そんなじゃないって。あいつはただの友達だよ」
「そっかあ……んじゃ、この間の子とはどうなってるの?」
「どうともなってないって……」
完全に浅井はノリノリになっているので、正直面倒に感じながらも適当に返事をする。
浅井はいつもこういう浮ついた話の流れになると、テンションが跳ねあがる気がする。おそらく恋愛話が好きなんだろう。
こういう色恋沙汰の話は外野は楽しいかもしれないが、当の本人はあまり楽しくなかったりする。……はず。
「そうか、せっかく練習したのになあ」
実のところ、神坂の方とはどうにもなっていない訳ではないのだが、別れ方があまりにも微妙だったので、あまり話したくない。
「そういう浅井の方はどうなんだんよ。いっつも人の話ばっかりじゃないか」
ここで、ずっと聞き役だった中島が質問する。
おそらく中島は、俺がこの話題を快く思っていないのを感じて、話題の転換をしようとしたんだと思った。
「お、俺!?俺に矛先を向けるなよ!!俺はそんな浮ついた話はないですよ……じゃあ、ナカジはどうなんだよ!!」
「え?俺?俺はあれ、今はまだそんな彼女とかどうでもいいし。適当にダチと遊んでるのが一番楽しいから」
「「きみが言うと嫌味にしか聞こえないから!!」」
相変わらず中島は恐ろしい。言う人が言えば、負け犬発言なのだが、すごくスタイリッシュに言いのけた……
「えー。ぶっちゃけ、彼女とか面倒くさくない?」
「え、ちょっと待って……ホモの人……?」
浅井は思わず禁断の質問をする。
向こうの方では、おそらくこの会話を聞いていたであろう女子が泣いている。中島のことが好きだったんだろうが、お気の毒に……
「違うわ!!ただ、今はまだいいってだけだよ」
それだけでも十分女に興味がない風に聞こえるがな……
「人のこと言えないけど、きみら寂しい人生送ってるのね……子供のころとか、その幼馴染の子とはなんにもなかったの?」
ぐッサリとくることを浅井が言ってくる。だが、実際佐々原とはなにもなかったし、小、中でなにか出会いがあったわけでもなかった。
中島の方も同じなようで、佐々原には友人以上の感情を抱いていることは無い様だった。
「なんか、ねえ。あいつは小さいころから一緒だからか、そういうのは特にないなあ……」
「やっぱり、小さいころからずっと一緒にいると、そういう対象にならないものなんだな」
清水は感心したようにうなずく。
「そうだなあ……物心つく前から一緒にいるやつは、親や兄弟と同じようなもんだからな」
「確かに、それはわかる気がする」
中島の意見にはおおむね同意だ。物心つく前からいた人なんて、そうたくさんはいないが、どの人も兄弟の様な感覚で接していたことに気づく。
「いいなあ……俺は引っ越しとかしてるから、幼いころからの知り合いなんて一人もいないよ……」
「それが普通じゃん?俺らみたいに閉鎖的な村で暮らしてる奴なんて、そうそういないだろうし」
俺たちは小さな村で、生まれた時から今まで16年間ずっと暮らしてきている。当たり前のように思っていたが、案外すごいことなのかもしれない。
浅井も引っ越しを経験しているようだし、佐々原だって今までどこか別の町に行っていた。
別の町や県と言うのも気になるが、やっぱり一つの場所に永住できるというのは恵まれていることだと思う。
現に俺はもう、ずっと住んできたこの村にずいぶんと愛着がわいていた。
「そうだな。それに案外引っ越しだって悪いものじゃないぜ?新しい知り合いもできるし、環境が違うから世界も広がるし……ずっと同じところにいたら、閉鎖的な考え方になっちまうぜ?」
浅井は嫌味っぽく言って、永住組の俺たちに対抗しようとする。
浅井のくせに、今回は割と的確なことを言ってくる。本当に閉鎖的な考えになるかは分からないが、別の場所を知れば視野が広がるのは事実だろう。
そう言えば、佐々原は引っ越していた間、どんな風な生活をしていたのだろうか?
考えてみれば、引っ越し先さえまともに知らないことに、いまさら気が付く。
普通引っ越し前にいろいろと聞くものだろうが、なぜかそういう情報が一切ない。それどころか、あんまり佐々原が町を出て行った時の記憶すらない。
気が付いたらいなくなっていた、そんな感覚だ。
「なあ中島。ちょっと話は変わるけど、佐々原が今までどこに行ってたか知ってるか?それ以前に、引っ越しの時のこと覚えてるか?」
清水のいる前だったが、あんまり気になったので中島にも確認をしてみた。
「どうした突然……?そりゃあ当然――いや、待て。覚えてない……?」
その答えは予想通りだったが、中島は記憶が無いことに驚きを隠せないようだった。
「やっぱり中島も覚えてなかったか……」
この不可解な現象が理解できなくて戸惑う。いったい、なぜこんなことが起こってしまっているのか……
「どうしたんだよ?お前らその子の引っ越し見送りに行ってあげなかったのかよ」
事情を全くわかっていないはずの清水が口をはさむ。
だが、今清水が口をついた言葉。それが事実な様な気がした。
「引っ越しを経験した人間から言わせてもらうとな、自分の引っ越しを親友に気にしてもらえないって、相当きついと思うぞ?」
「そ、そっか……」
事実はわからない。それでも、清水のいうことが正しい気がして、俺たちは佐々原に対して、心の中で謝った。
次に会ったら、どこに引っ越しをしていたのか聞いてみよう。
だけど、どうして俺たちは佐々原の引っ越しを気にかけられなかったのか。
それだけがどうしてもわからなかった。




次へ

戻る

inserted by FC2 system