回想〜3〜

「お、重い……」
作業で使う木材を運ぼうと持ちあげてみたが、見た目以上の重さに思わず根を上げる。
小学生にはちょっと重すぎたかなと思い、誰かに助けを求めようと辺りを見回してみる。
すると、ちょうど真横を佐々原が通り過ぎていった。
「おい!!ちょっとこれ一人じゃ持てないから手伝ってよ!!」
と、叫んだどころで気付く。佐々原が俺のより圧倒的に重そうな木材を持っていることに。しかも軽々しく……
「ちょっと待ってー。今手離せないから――って航希、その程度も持てないの!?じゃあ、これ運んだら行くから、ちょっと待ってて!!」
「あ、うん。ありがと……」
佐々原はからかうこともせず、当然のように手伝おうとしてくれた。
佐々原にからかわれなかったのはありがたいが、手伝うのが当然のようになっていて、逆に悔しかった。
「男子なのに女子より非力って、自信なくすなあ……」
あまりのむなしさに、つい独り言を漏らす。
「大丈夫だよ。女の子の方が発育が早いから、今は負けてるけど、あっと言う間に追い越せるよ」
「え……?」
独り言に対して、予期せぬ返事が返ってきため、驚いて振り返る。
すると、すぐ真後ろに朗らかな笑みを浮かべた、人のよさそうなおじさんが立っていた。
「園原のお父さん!!」
「お疲れ。ちゃんと仕事してるみたいだね。えらい、えらい」
そう言っておじさんは、頭をぐしゃぐしゃとなでてくる。
「いや、もうそんな年じゃないですから、やめてください!!」
「ん、ああそうか。ごめんごめん」
笑みを崩さずに、謝りながら手を引っ込める。
このおじさんはどうにも苦手だ。いい人だって言うのはすごく伝わってくるんだけど、誰に対しても今みたいに子供扱いするから、正直対応に困る……
実際に園原も、家ではずっと子供扱いをされていると文句を言っていた。
「ところで、おじさんはどうしたんですか?こんなところまで」
「ん?それはね、詩織が一人でさびしいから様子を見てきてほしいって頼むから、様子を見に来たんだ」
「は、はあ……」
さびしいから様子が知りたいと思うのも園原らしいし、その頼みを素直に引き受けるのもおじさんらしいなと思った。
「それより、作業は順調かい?今年は子供たちが大忙しだって聞いたんだけどね」
「まあなんとか……見ての通り佐々原に見せ場とられてますけど……」
「気にしない、気にしない!!僕たちから見たら、みんなよく働いてくれてるよ。――っと、噂をすれば美樹ちゃんが応援に到着したみたいだよ?」
おじさんの目線をたどり、振り向いてみると木材を運び終わった佐々原がこっちに向かってきていた。相変わらず、元気に駆け足だ……
「お待たせー!!って、詩織のお父さん!?どうしたんですか!?」
「いやあ、詩織が一人でさびしいから様子を見てきてほしいって言ってね」
二人はさっきと同じ内容の会話を繰り返す。
「そうなんですか?詩織ならさっきそこで会って、お昼にするからこっち来てって言ってましたよ?」
「そうなのかい?だったら、向こうで黙々と作業をしている周平君も呼んで、お昼にしようか!!」
そのひと言で、周りの空気ももみほぐされる。
俺も正直おなかがだいぶ減っていたのでありがたい。
「ところで……」
「なんですか……?」
「お昼はちゃんと詩織と奈央が作ったんだろうね……?」
「いや、村の女性全員だと思います……頑張って二人の料理を探し当ててください……」
「そ、そうなのか……頑張ろう」
おじさんは大分、娘の手料理を期待していた様だった。




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