Memories of Tear  第一章(4)

「ほんとごめんな!!」
「まあいいよ。そういう理由ならね……」
昼休み、突然中島から今日の委員会の仕事を変わってほしいとお願いをされた。掛け持ちしている委員会の仕事が重なったとかで、やむを得ない理由だったので引き受けた。
 「俺がいうのもなんだが、たまにはお前も仕事してみろよ。どうせお前の所属してる図書委員って実質仕事ないじゃん」
 「月に一回くらいはあるし……いや、ない時もあるが」
「そんな訳で頼むな。もう一人の委員の奴にも説明しとくから。放課後になったら教室で待っててな」
「もう一人の委員って?」
「ああ、浅井だよ。何回か話したことあるだろ?」
「まあ、事務的な会話だけならな」
「そんじゃ、よろしく!!」
面倒くさいことになった。浅井も悪い奴ではないし、仕事をするのも嫌いじゃないが、なんとなく気が進まない。
だが、いいきっかけかもしれない。たまには自分から頑張って人とかかわるのもいいかもしれない。それに案外、これが神様のくれたチャンスかもしれないし。
午後の授業も適当に受けて放課後が来る。周りは次々に教室を出て部活や家にそれぞれのいるべき場所に帰っていく。中島もその流れに乗って急がしそうに教室を出ていく。
中島に教室で待っていろと言われたから、こうして何もせずに待っているが、なんだかじっとして待っているだけと言うのも逆に緊張する。
浅井は自分の席で荷物をまとめている。待っているのもなんだし自分から話しに行こう。
らしくないことをしていると分かりながら、席を立ち浅井の席に向かう。
席の前に着いたときにちょうど向こうがこっちに気付いた素振りを見せた。
「お、今日はよろしく。ナカジから話は聞いてるよな?」
ナカジと言うのは中島のことだろう。結構そう呼ばれてるを聞いたりするし。
「ああ。大丈夫、ちゃんと聞いてるよ」
相変わらず人当たりのいい声でしゃべってくる。髪型は程よく短くしたさっぱりヘアー祖タイルで、あっさりした顔立ちをしている。こいつはクラス一の好青年じゃないだろうか。
そこでふと気が付く。
「……なあ、すごくいまさらなんだが……俺は今日なんの委員会の手伝いをするんだ?」
「何の委員会だと思う?」
「無茶ぶりもいいところだろ。俺どんな委員会があるかもほとんど知らないんだけど……」
「選挙管理委員だよ。聞いたことあるだろ」
「ずいぶんとまた面倒くさい委員会にはいったもんだな……」
部活をやっていないからという理由で委員会の掛け持ちをした中島にあきれる。
あいつは昔から変なところでまじめなところがあった。
「めんどくさそうな名前の割には、選挙前しか仕事ないから楽なもんだぜ」
浅井はそう言っていたずらっぽく笑って見せる。
まじめ一辺倒な人間かと思っていたがこういう顔もできるのか……当然のことだが、未だに浅井と言う人物を俺は測れずにいた。
2人きりで廊下を歩いて、集合場所の会議室に向かう。
ふと考えてみれば、あまり親しくない人間と二人きりという状況であまり緊張せずに話せていることに気が付いた。
単に俺が人づきあいの苦手を克服したのか、浅井の人格のおかげなのかはわからないが、おそらく後者だろう。
「そういや、今日はどんな仕事をするんだ?というか、いきなり知らない人間が入っていいのかな?」
「気にしすぎだろ。きちんと紹介すれば」
「ああ、じゃあ適当に紹介よろしく」
「まかせな!ばっちり代役に来た中島の彼女ですって伝えてやるよ!!」
「……はあぁ!?」 ただ単純に驚いた。こんな冗談を言ってくるとは……
「なんか、もうお前のキャラが分からなくなってきた……」
「冗談、冗談。そんな変なキャラじゃないって」
浅井は笑いながら否定しているが、その顔に最初の好青年っぽさはなくなっていた。(様に見えた)
「あ、ちなみに気をつけろよ。中村あたりはそういうネタ好きだから」
「気をつけるのはお前だろうよ……」
「着いた着いた。この会議室で普段やってんだ」
そういいながら浅井はドアに手をかける。
これから知らない人たちと一緒に作業するかと思うと緊張するな。憂鬱というよりもどきどきする。俺は何か変なミスをしないだろうか。
実は寝癖がもわもわしてたとか、それとも社会の窓が!?……いや、大丈夫だ開いてない。
はたまた、顔が怖かったり?いやまてよ、逆に顔が貧弱すぎて……
「恐喝されたり!?」
「いや、その発想の飛躍は失礼だからな…」
「だよな……てかよく俺の思考経路がわかったな」
内心この男にツッコミをされたことにショックを受けつつ、思考を正常に戻す。
「だって、そんなに不安そうに頭を抱えながら、悩んでそうな表情をしていれば誰だってわかると思うぞ……」
「え、頭なんて抱えてた?」
試しに手を握ってみると、髪をくしゃっとつかめた。
どうやら本当に頭を抱えてたらしい。ちょっと恥ずかしい。
「ほら余計な話は終わりだ。さっさと行くぞビビラー」
「え、ちょっビビラーって俺?」
浅井は俺の抗議も無視しながら扉を開け放つ。
「こんちはー」
ああ、まだ心の準備ができてないのに……
「失礼します……」
部屋をのぞくと、中には3人ほどの男女がいて、不思議そうに俺を見ていた。
「あ、ええと、あの」
なんといっていいか分からずに、まごついてしまう。助け船を求めて浅井を横目で見ると、任せろと言わんばかりの顔で見つめ返してきた。
「あのな、今日中島の奴が別の委員会とかぶったんで代わりの連れてきてくれんだ。それで、こいつがナカジの代わりに来てくれた俺の彼女の清水です」
「っておいいいいい!!」
叫ぶのと同時に、奥でガタっと効果音を立てて身を乗り出す女子が一名。彼女が中村さんでしょう。
「だめじゃん、中島がお前になっただけじゃん!?」
「それは中島君から乗り換えたってことですか!?」
中村(?)が目を輝かせて聞いてくる。よく今のだけでそれだけのことが理解できたな……
何という中途半端な理解力だ。まあ、間違いだが
「いやいや、中村さん。今のは浅井なりのちょっとしたジョークさ。決してそんな事実はないでありますよ」
駄目だ、出会ってしょっぱなから最悪な流れになっている。浅井め、あとで絶対にでこピンしてやる。
「えと、私は中村じゃないですよ?私は中山です」
「あれ?なんかやけに食いついてるから中村さんかと……」
そう言うと、奥の方でじろっと一人の女子が目を向けてきた。
「失礼ね、あたしはそんな安いネタに食いつくほど落ちぶれていないわ。まあ、中島君が彼女だというなら食いついたかもしれないけどね!!」
中村さん(こんどこそそうだと信じたい)が激しく抗議してくる。
「まあまあ。せっかく手伝いに来てくれたみたいなんだし、その辺にしておいてあげようよ」
落ち着いた感じの男の人が助け船を出してくれる。見た目的に3年生だろう。
「すまないね、騒がしくって。僕は委員長の中畑だ、よろしくな」
「はい、清水です、よろしくお願いします」
「「よろしくー」」
向こうの方から中村さんと中山さんも挨拶してくれる。
「よかったな、無事まとまって!!」
隣では浅井が気持ち悪いくらいにさわやかに微笑んでいる。
俺も負けないぐらいのさわやかな笑顔で
「全部おまえの所為だよ、バーカ」
開始早々疲労感はピークに達していた。未だ作業すら始めていないのにも関わらずに……
けれど、この後、委員会の仕事を買い言死してからは、何事もなく進んでいった。
何度か他の委員の人と話す機会もあったが、浅井の仲介があったのと仕事中ということもあり、特に気兼ねなく会話をすることができた。
そして、2時間ほど経ち無事に委員会の仕事は終わりを迎えた。
ほっと一息をついたところで、ちょっとしたことに気が付いた。
「ふと思ったんですけど、みなさん名字が“中”の字から始まってるんですね。中畑さんに中山、中村、そして中島。あと……」
瞬間、この部屋の空気がピンと張りつめた。特に浅井からはとんでもない緊張した空気を感じる。
地雷を踏んだかもしれないと気付いた時には遅かった。
「ついに……気づいてしまったか…………」
浅井が重々しく口を開く。その声は低く、重々しいものだった。
しかし、他の面々は口を開こうとしない。まるで、すべての説明責任を押し付けるかのようなプレッシャーを放っている。
「俺はな……異端児なんだ」
浅井はあさっての方向を見て語る。その目の焦点は定まっていない。
ていうか、なんなんだ!!たかだか名字が似通ってただけの話じゃないのか!?
「あと一人だったんだ。あと一人で伝説が完成する。そんな状況だったんだ」
「別に打ち合わせをしたわけじゃない。ほんとに単なる偶然だったんだよ」
中畑さんが補足として付け加える。
「それなのに俺はみんなの夢を、希望を壊してしまったんだ……」
浅井は歯を食いしばりながら、ひとつひとつ言葉を紡いでゆく。
ええと、これはツッコミ待ちなのでしょうか?それとも、まじめに聞いておくべきなの??
「なあ清水、おまえに俺の苦しみが分かるか?ただ委員会に入会しただけなのに、いきなり周りの仲間からがっかりした、絶望の権化を見るかのような目で見つめられるんるんだ。その苦しみが分かるか!?」
中島や周りの面々はいたって真面目である。
明らかに冗談やドッキリでやっているわけでなあいというのがわかる。
いや、冗談やドッキリでこんなことをしていたら、はっきり言ってこの人たちはバカである。
冗談でないにしても、痛々しいが……
「そして挙句の果てに俺はこう呼ばれた。“伝説の破壊人”《レジェンド・ブレイカー》と……」
待て、少し待とうか・・・・・・
これは新手の心理テストか何か?
問い、こんな時あなたはどう対応しますか?
A、笑い飛ばす
B、なぐさめる
C、無視する
D、そんなことより踊りませんか?
俺はE、思考放棄を選んだ!
「ソレハオキノドクニー」
一通り事情を話し終えたからか、みんな続きを語ろうとしなかった。
よくわからないが、話はこれで終わりらしい。
どうやらこの委員会の面々は非常にめんどくさい人たちらしい。
「まあ、清水君」
「はい?」
中村さんが真剣な視線を向けながら語りかけてくる。
「もしこの委員会の仲間入りするというのなら覚悟することね!」
マジな目をして迫ってくる。きっとこの委員会に入ろうとするなら、浅井と同じ運命が待っているのだろう。
「ご遠慮させてもらうんで、ご心配なく」
さすがにこれからも、このめんどくさい人たちとかかわっていくのは面倒だ。正式に仲間入りすると言うなら、さらなる面倒が待っていることだろう。
嫌いではないが、なんというか非常に疲れる。
というか、普段中島はこのメンツの中でどういうポジションにいるのだろうか。あいつは結構まともな奴だと思うのだが……
「まあ、たまに忙しい時とかは手伝いに来てくれよな」
中畑さんは笑って誘ってくれる。
この人はこの委員会の最後の良心かもしれない。
「じゃあ、機会があれば……」
「ああ!それじゃあ、今日はこのあたりで解散だな」
「「「お疲れさまー」」」
中村さんと中山さんの女子二人は一緒に話しながら部屋を出ていく。
中畑さんを部屋に残し、俺と浅井もそれに続くように部屋を出た。
「お疲れさん、助かったよ」
「だれかのせいで余計に疲れたけどな……」
浅井はいつもの笑顔でねぎらいの言葉をかけるが、俺は悪態をついてみる。
「悪かったよ。けど、お前もよかったんじゃないのか?最初からしっかり話せたじゃないか。最初の固い雰囲気を壊すにはよかったと思うけど」
「それは、そうかもしれないけど……」
こいつがそこまで考えて、あんなことを言ったとは思えないが。
「それとさ、以外に清水ってしゃべるんだな」
「軽く傷付くことを言うなよ。まるで俺が暗い奴みたいじゃないか」
「え、違ったのか?」
浅井はからかうように言ってくる。だが、正直自分でも俺は暗い奴だと思う。
けど…………
「今日の委員会は、少しだけ楽しかった」
「……そか、それは良かった。ナカジにもいい報告ができそうだ」
やけに浅井は満足そうな顔をしていた。中島と何か話でもしていたのだろうか。
何か変な話をしていないだろうな?
「まあ、いいか」
普段だったら中島から恥ずかしい話とかされてないだろうかと、詰め寄ってもいい場面だが、なぜだか今日はどうでもよかった。
「なにが……?」
「こっちの話だ。気にすんな」
その後も他愛のない話をしながら歩いて帰り道へ向かう。
校舎を出て、グラウンドの前に来たところで分かれ道になる。
「それじゃあ、俺は自転車だから」
「そか、それじゃあな」
浅井は大きく手を振りながら見送ってくれた。
俺も手を振り返し、不器用に微笑みながら「それじゃあ、また明日」とあいさつする。
それを聞き浅井は今までで最高の笑顔で微笑み返してきた。
家族や中島以外とこうして笑いあうのは久しぶりで、なんだかすごくうれしかった。
浅井だけじゃなくて、他の委員会の人ともいろいろと話ができた。無駄に疲れたが、こうした時間や空間を大事にしたいと思った。
「あれ?もう終わりなの?」
「そこは駅まで送って行けよ、エスコトート足りないんじゃないの?」
良い雰囲気をぶち壊す女子が二人、後ろにいた。
当然中山中村コンビだ……
「だめだよ清水君、ここは別れを惜しんで夕陽の下見つめあうシーンでしょ?」
「余計なお世話じゃい!!」
この二人から逃げるように自転車にまたがり、 自転車にまたがり夕方の空の下を自宅に向かって急いだ。




次へ

戻る

inserted by FC2 system