Memories of Tear  第1章(7)

そのまま奈央ちゃんとは分かれて、二人で大通りへと歩き始めた。
 その間は会話を途切れさせないのに必死だった。神坂はあまり自分から話すタイプではなく、逆に質問をしたとしてもなかなか会話が広がらなかった。
 さっきの挙動不審な態度についても聞いてみようかと思ったが、なかなか勇気が出せずに聞けずじまいだった。個人的な問題かも知れないし、それを聞くほど親しい間柄ではない。
 そんなことを考えていると、そもそもどうして神坂とこうして歩いているのか、わからなくなってくる。
 「なあ、今楽しいか?」
 どうしても聞かずには居られなかった。
 おそらく俺が最初、神坂に声をかけたのだって、ただの同情からだ。
なんとなく目に着いたから、なんとなく誘った。本気で仲良くなろうとなんて思っていなかった。
 そんなので楽しいわけがない。
 楽しませられるわけがない。
 「楽しいのかどうかはわからない……でも、最初に声をかけてもらった時はうれしかった」
 そう言ってくれた。
 少し救われた気もしたが、逆に申し訳ない気もした。
そこで確信した。このままではいけないと……
自分を変えてみようと決意したばかりだ。だからこそ、しっかりと神坂と向き合おうと思う。"神坂を助けたい"、とかいうエゴではなくて。同じ村に住む仲間として……
「なあ。神坂は自分が、神社の神主のあととりだってことをどう思ってる?」
ついに聞いてしまった。いや、ついにと言うほどの付き合いでもないか……
それでも精いっぱいの勇気を出して聞いてみた。
聞いてしまったらには、神坂の感情に踏み込んでいく勇気を持っていかなければならない。
「特になにも……普通の人と変わらないって思ってる」
以外にも神坂はあっさりと答えた。表情に変化はない。
自分にとってそれほど重要な問題と考えていないのか、それとも無関心を装っているだけなのか。
「……さびしく……なかったか?」
失礼な質問だ。自分でもわかる。
だが、最近の俺は勢いがあった。昔のいちいちビビってた自分ではない。
何事もほんの少しの勇気から始まるんだ。
「……それは……当然、寂しかっ――――」
神坂が答えた。答えようとした。
だが、その声は目の前を通った車のエンジン音によってかき消された。
さらにあろうことか、その車は俺たちの目の前に止まったのである。
神坂の返事が聞こえなかったことに苛立ち、車をにらむ。
今の神坂の答えは聞いておきたかった。聞きなおすこともできるが、この質問を繰り返しぶつけるのは、はばかられる。
だが、その気持ちは……すぐに収まった……
その車から降りてきた人物によって…………
「ひさしぶり……」
その車から降りてきたのは、俺たちと同年学年の少女で、よく見憶えのある顔だった……
彼女の顔を見るのは実に5,6年ぶりくらいだったが、さほど顔立ちは変わっていなかった。
「佐々原……」
数年ぶりに出会った少女の名を呼ぶ。
自分でも驚くほど自然に、彼女の名前が口からこぼれ出てきた。
だが、突然のことに思考の整理が追いつかない。本来佐々原は、遠い町で暮らしていたはずで、今までこの町に顔を出すこともなかったのだ。
それなのになぜかここにいる。
「なんで、おまえ、ここに……?」
「引っ越してきたの。と言っても、前住んでた隣町の実家なんだけどね」
軽く笑いながら返事をする。その顔が記憶の中のものと似すぎていて、過去に戻された気持ちになる。
次第に気持ちは驚きから懐かしさに変わる。
ここにきてようやく理解する。俺は何年かぶりに、昔なじみである少女、佐々原美樹と再会を果たしたのだと――




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